LONG COLUMN 006


 以前、機長が部分翻訳したDonna Dubinskyのインタビュー「ミニ定期便723 Donnaは倉庫番が好きらしい。」の誤訳部分に関して修正メールを送ってくれたたきさんから、以下のようなメールが届いた。


機長様、

Jeffの新しいインタビューが
こちらの「US News」という週刊誌に載ったようです。
この号は、いろいろ生活を便利にするはずの技術が
反って物事を複雑にしている
、という特集で、
その一部の記事です。
長くなってしまいましたがご参考にと思い、
日本語にしてみました。原文はこちらです。
意訳した部分もありますので、ぜひ原文をお読み下さいね!

それではまた。

たき


これは、とても素晴らしいインタビューであり、日本語意訳であると思ったので、以下に掲載する。






An apostle of simplicity
シンプリシティの主唱者

パームパイロットの生みの親であり、PalmOSをライセンスしているハンドスプリング
社の創立者の一人でもあるジェフ・ホーキンス氏は、シリコンバレーにおける消費者
向け電化製品の簡素さを主唱していることで知られている。以下の文章は、彼の
USNews編集者のジャネット・レイ-デュプレーによるインタビューの記録である。

Q:現在、手近にある消費者向け電化製品の技術について、どう思われますか?

A: 電気エンジニアでない一般の人がどうやっていけるのか、想像もできないよ。僕
のテレビ、ビデオデッキやPCは問題続き。これらの製品を使うことがどれほどひどい
かというのに驚くばかりだよ。

Q: パームパイロットのデザインをするに当たって、どういうことをお考えになりま
したか?

A: 僕たちは基本的に、個人的な情報管理の道具を持つということは正しいことだと
信じていた。でもその時までに市場に出ていた製品は、ひどく使いづらいものがかり
だった。Jean-Louis Gasseeがある日、僕のオフィスで紙のカレンダーを取り出して
見せ、「(新しい製品は)これより良くなければ絶対だめだよ」と言ったんだ。僕たちは
その言葉を心した。確実で直観的でとても速いものを人々が欲しがるということは分
かっていた。とても速い物。紙より速くなければならない。どんな物を作るにして
も、たとえそれが中では複雑だとしても、使うのは簡単明瞭でなければいけない。製
品は複雑で、洗練されたことができなければならない。でも、ユーザーの経験は簡単
でなければならない。これを僕たちはデザインコンセプトとして使った。多くの人に
正気じゃないと思われたよ。


Q: なぜ他の生産者は操作の簡単さについて考えないのでしょう?

A: 簡単な製品を作り上げるのは思うほど簡単ではない。とっても難しいことなん
だ。直観的で簡単に使える製品を作るということはとても難しいデザイン問題なん
だ。

Q: あなたがデザインに対処する方法と、競争者の方法との違いはどこにあるのです
か?

A: それについては答えられるかどうかわからないなあ。僕たちのプロセスはとても
手の込んだものなんだ。なぜ他の競争者が僕たちほどうまくできないのかは僕にはわ
からない。僕の仮説を立ててみよう。消費者は常に理性的とは限らない。店頭にある
様々なビデオデッキを見ると、一つには3ヘッドと書いてあり、もう一つには4ヘッド
と書いてある。また違うのには、"アキュトラック"先行予約プログラミング機能と書
いてある。消費者は“アキュトラック"が何を意味するか全く見当もつかないけど、
彼らが買うのはその"アキュトラック"付きのビデオデッキなんだ。購入の決定は、
マーケティング用の機能によって左右され、操作の簡単さについては消費者は考えな
い。

この現象は、どの会社の製品も殆ど同じで生産者が自分たちの製品にどうにかして違
いを出そうとするときによく起こる。

僕たちがPalmPilotを作った時には、このカテゴリー(PDA)には成功している製品がな
かった。だから、僕は特定の製品と競争していたわけではないんだ。僕は、成功して
いる製品がないというコンセプトと競争していたんだ。僕は人々に、(同じような他
の製品の中から)僕の製品を選ばそうとしていたのではなく、買うという選択をして
もらおうとしていたわけだよ。

人々は操作が簡単な製品を喜んで受け入れることもある。でも、歴史的には消費者は
機能を見て買うことが多いんだ。

Q: マッキントッシュはどうですか?マックは最初から使うのが簡単でした。

A: アップルは本当に良いデザインの製品を作ったけど、その後何年も二つの大きな
間違いを冒し続けた。それは、製品の値段を高くしすぎたことと、操作の簡単さを革
新することをやめてしまったことだ。

ユーザーフレンドリーさの代わりに彼らはDOS機の後追いを始め、事務機市場に参入
したんだ。彼らは彼らの中心になっていた価値を失ってしまった。随分長い間、操作
の簡単さやインダストリアル・デザインの点では改良がされなかった。つい最近、ス
ティーブ(ジョブス)が帰って来てやっと再び基本に集中してから新たに成功し始め
た。代わりに、彼らは企業(市場)に誘い込まれてしまったんだ。

僕たちも同じ問題を抱えてしまったかもしれないけど、それは許さなかった。マイク
ロソフトはPalmIIIが出た後、僕たちをターゲットに据えた。彼らはボイス・キャプ
チャーや他の高度な機能で僕たちを抹殺しようとした。でも、僕はいや、何か彼ら
(MS)ができないことをしようと言った。美しい製品を作ろう、と言ったんだ。PalmV
には技術的には全く新しいことはない。インダストリアル・デザイン、パッケージン
グ、素材にこだわったんだ。芸術品だよ。そして、マイクロソフトはこんな製品を作
るにはどうしたらいいか、全く見当もつかないんだ。彼らはエレガントなインダスト
リアル・デザインに焦点を置く、ということができないだ。僕はPalmVに、技術的に
はわざと新しい機能を加えなかったんだ。しかし、PalmVはとても成功した。

Q: Palm Vに技術の革新を含まなかったことについての批判はなかったのですか?

A: エンジニア達の中には、PalmVを見下げた人はきっと居ると思う。でも、殆どの
人々にはとても好評だったよ。人々は、見かけやサイズ、スタイル、操作のエレガン
トさも気にかけているのさ。それは人間の本能だよ。情報のナゲットがある。でも、
結局は人々はスタイルや簡素さといったことを気にするんだ。それは個人的な好みの
問題でもある。

僕たちはこのハイテク機器は他のどんな製品とも違わない、という概念を再び提案す
るために働いている。これらの製品は、ユーザーを助けなければならなく、シンプル
でエレガントで、ユーザーが心地よく使えるものでなければならない。テクノロジー
最優先という概念は、ちょっと変だと思う。


Q: 今までに一番消費者向けテクノロジーにいらいらした経験というのは?

A: 家には2年程前までとても古くて小さいテレビがあったんだ。でもオリンピックを
見たかったんで、中くらいのクラスのソニー製のテレビを買ったんだ。ついでにソ
ニーのビデオデッキとカメコーダーも買ったんだ、同じ会社の製品だから互換性もあ
ると思って。ところが何という災難だったことか!このテレビのリモコンはインプッ
トモードが25もあって、いまだに使い方が分からない。テレビのチャンネルさえ変え
られないことがあるんだ。時たま消音ボタンを押すとチャンネルが変わったりするこ
ともある。妻に「どうして直してくれないの」と怒られるけど、僕はこの製品をデザイ
ンしなかった。

携帯電話も操作の簡単さの模範の筈だった。番号をプッシュして、送信ボタンを押
す。でも携帯を持っている人に何番スピードダイアルをセットしてるか聞いてごら
ん。きっと「2つ登録してあるけど、あとはどうやってセットすればいいか忘れた」っ
て言うだろう。最も有効に使う方法がユーザーに分からないなんて、ユーザーイン
ターフェイスが絶たれてるんだよ。

Q: インターネット使用可能なWAP携帯電話についてはどう思われますか?

A: 僕がWAP式の携帯電話を最初に使ってみたのは2年ほど前のことだった。その時
その場でこれは絶対成功しないな、と決めた。どうやっても改良できないよ。誰かに
これをインターネットに繋ぐには、27のステップが必要だと言われた。こんなこと、
誰ができる?9ヶ月前、誰もがWAPが全世界を制覇する、と言ったけど僕はいや、絶
対しないと言った。

Q: VisorPhoneを開発中に、(電話機能より)ワイヤレスインターネットに主眼を置く
こともできたのに、あえてそうしなかった理由は?

A: VisorPhoneでは、データ送受信には焦点を置かなかった。人々をがっかりさせる
ことを宣伝する必要はないだろう?僕たちが作ったのは、良い電話、操作が簡単な電
話さ。この電話は持ち主に誰から電話がかかっているかしらせてくれるし、電話をか
けるのも簡単だ。

ワイヤレスインターネットもVisorPhoneでできるけど、僕たちはそこにフォーカスし
てない。それについては宣伝もしてない。僕は自分のVisorPhoneをウェブ・ブラウ
ザーと一緒につかうことができる。僕はとてもいいカラーディスプレイのついている
Visor Prismを持っている。ISPに繋げて、ブラウザーを立ち上げてウェブをサーフす
ることもできる。とてもうまくいくよ。でも、僕はこの機能が一般の消費者向けだと
は思わない。僕はブラウズができるようになるまで、ISPと契約して、ソフトウェア
をインストールしたりとか、色々マイナーだけどテクニカルなことを我慢する必要が
あった。

ピンチ時にはワイヤレスインターネットに使えるし、うまく動くよ。僕たちはこれを
もっと改良するつもりだけど、現時点ではVisorPhoneを使うのがユーザーにとって楽
しいことであってほしいんだ。だから、VisorPhoneはすごく良い電話として宣伝して
いるんだ。VisorPhoneのユーザーインターフェイスはとてもいいよ。ボタンを押すだ
けでダイヤルしてくれる。でもデータのサイドでは、まだちょっとグレイトだとはい
える段階ではなかったんだ。

Q: なぜ、一般に生産者はこのシンプリシティのメッセージを見失っているのでしょ
う?

A: エンジニアが支配しているからさ。彼らは必ずしもユーザーフレンドリーな製品
をデザインしない。PCのように、技術面が先走りして消費者が悪い製品に我慢して付
き合うというのはテクノロジー製品の歴史だ。テレビは最初悪く、簡単になったけど
また複雑になってきた。人々の購入決定のプロセスは非合理的なこともあるんだよ。

Q: 製品が思い通りに働かないとき、人々が責めるのは誰ですか?

A: 人々は自分を責めることもあるし、機械を責めることもある。これはグラフィ
ティから学んだことの一つなんだ。最初に手書き認識機能が登場してそれがうまく機
能しなかった時、人々はコンピューターを責めた。人々は「私は私がしなければなら
ないことをしてる、いつも私が字を書くようにかいている、だからこのマシンは壊れ
てる」と言ったものさ。

グラフィティについて、僕たちは人々にもし彼らがこの独特の書き方で書くときっと
うまく行くはずだと言った。そして僕たちはこの約束をまもった。もし書く人がちゃ
んすべきことをしたら、うまくいくはず。もし書き方を間違えたら、それは書いた人
ののせいさ。

操作が複雑で、いらいらさせられるテレビを持っている人の中には、「これはひどい
製品だけど、もし私が使い方を勉強すれば使えるようになる」と言う人もいるだろ
う。また、「これは使い物にならない。なんて馬鹿な製品だ!」という人もいるだろ
う。

Q: あなたはシンプリシティを競争する際に利点として使っているのですか?

A: そう、そしてこれからもそうしていくつもりだ。簡単なことじゃないが、とても
重要なことだ。











じゃ。


2001年1月20日



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